1.磁場の女王と共にエムスランドの沃野の超低空を切り裂く
- トランスラピッド TR08 残照
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2006.9 の事故で今は亡き TR08 試作車ありし日の雄姿 |
1 超高速リニア初の量産モデル・トランスラピッド TR08
通常のレールとリニア (直線) モーターを組み合わせて断面小型化と登坂力向上を図った鉄道は、日本では鶴見緑地線 (大阪) を嚆矢として大江戸線 (東京)・海岸線 (神戸)、そして福岡・横浜・仙台、海外でもバンクーバー・ トロント*・デトロイト・ニューヨーク・クアラルンプールと各地で次々に導入され、完全に普及期に入った。これに対して、レールと車輪を廃した磁気浮上列車は、摩擦部位が無く高速性能・低環境負荷に優れた未来の高速鉄道として日独を中心に開発が進んでいる。わが国ではHSST (High
Speed Surface Transport、高速地上交通) 方式と称する常電導吸引型磁気浮上列車が2005年3月に軌道法上の特許を得て愛知高速交通東部丘陵線 (リニモ) として実用化段階に入り愛知万博輸送を皮切りに活躍を始めたが、これは最高時速100キロの中速・中量輸送手段というコンセプトだ。 |
龍陽路駅に飛び込んでくる TR08 量産車。
キセノンライトに変更された前照灯が真白に輝く。
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ドイツの磁気浮上列車トランスラピッド (Transrapid、以下TR) は、当初計画されたベルリン-ハンブルグ (-アムステルダム・スキポール空港) の北回廊区間こそ高コストの為に受注に失敗したものの、 上海* で2003年12月に世界初の営業運転を開始した。コスト割れ受注を指摘する報道に接した記憶があるが、超高速リニア世界初の営業運転の実績をまず作る意義は大きく、当然あり得る経営判断だろう。返す刀でミュンヒェンやルール地方そして東欧を含む欧州各地でも営業攻勢をかけ、まだ超高速走行用では受注実績の無い日本より一歩先んじた。「磁浮」と略称される上海TRは最高時速430キロで上海市内とプドン (浦東) 空港間30キロを僅か8分弱 (時速300キロで「徐行」する早朝深夜は10分) で結ぶ超高速型だ。この俊足をもってすれば都心から雲煙遥かな成田空港も15分前後で東京駅と結ぶ事も可能だろう。 |
浦東空港駅で乗客を待つTR量産車。ドア位置にぴたり
合わせた安全柵が停車位置の正確さへの自信を表す。
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これに対してミュンヒェン* (計画では Franz
Josef Strauss 空港-中央駅間約37キロを10分で結ぶ筈だった) とDortmund
- Essen - Düsseldorf (約80キロ) では速度を少し抑え (前者の最高時速350キロ程度) 完成予想図は赤を基本としたDB近郊列車標準塗色となっている。だが独自色旺盛なバイエルンの州都ミュンヒェンのTRは、同じく地元のバイエルン自動車工業・ BMW 社の商標* 同様、州旗のシンボルカラーに合わせて青と白とする案もある (乃至あった) ようだ。
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ドイツ虎の子のハイテク列車が自国で予算が付かず、唯一買い手がついたのは
遥か遠くの中国のみという現状には、TR技術者としては忸怩たる思いがあろう。
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上海トランスラピッドのいわば量産先行車が TR08 であり、DB の新幹線 ICE 用標準塗色で登場した。TRのエムスランド実験線 (Transrapid
Versuchsanlage Emsland, TVEと略称される) で行われる TR08 の試乗を何度か試みたのだが、満席だったり折角券が取れても上海用の追加データ収集の為ドタキャンされたり、はたまた自分の日程が空かず涙をのんだりで「これは駄目かな?」と思っていたところ、日本に出張した際ルフトハンザ機内で隣席の乗客が偶々ティッセン社 (TRの大口出資社の一つ) の役員で、話してみたら協力を快諾、帰独後すぐに紹介状を書いて下さり、懸案の TR 試乗は本帰国の数ヶ月前に何とか間に合った。 |
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2 エムスランド実験線 TVE
TVEのある Lathen ラーテンはオランダ国境近くのエムス地方の村で、当時住んでいたフランクフルトから往復800
余キロあったが、1日休暇を取り愛車アルファロメオを長駆してやってきた。全長31.8キロ、単線だが両端に各半径1690mと1000mのループを設け連続周回運転が可能な リボン型配線のテストコース* を擁する広大な TVE 敷地は9.11テロの後にもかかわらず自由に車で移動しながら撮影し放題だった。列車が接近すると軌道の磁石がジーンと独特の唸り音を発し、森の静寂を破る。その刹那、3輌編成の TR08 がシュパーー・・ン!と居合のように空気を切り裂き、通過約1秒後にはもう軌道の磁石の唸り音も収まり、再び森の無数の梢の野太いさざめきと小鳥の鳴声のみが支配する静寂が戻っている。 |
試作車の車内表示は当然ドイツ語だ。営業運転で
ドイツ語の車内表示ができる日はいつ来るだろうか。
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いよいよ筆者の試乗の時間が近づいたので「駅」*に行く。TR08 と感動の再会。「再会」というのは、この TR08 をその完成直前にカッセル近郊の ThyssenKrupp
Transrapid GmbH 社の工場見学に行き一度見ているからである。TRのデザインを担当したのは München の前衛的産業デザイナー、ノイマイスター Neumeister 氏* だ。彼の他の作品には独 ICE3* (第11話参照)や振子特急ICE-T、JR西日本500系新幹線 (1996年度グッドデザイン賞、1998年度ブルーリボン賞受賞)、福岡市地下鉄七隈線3000系* (鉄輪式リニア地下鉄、2006年度ローレル賞受賞) 等、錚々たる面々が居並ぶ。頑丈な骨格の高架上、大量のコンクリートで固めた要塞のような軌道の中を野太い唸り音と共に突進する男性的な日本のマグレブとは対照的に、細身で華奢な軌道上を滑る、高名なデザイナーの手になるすらりとした TR08 のボディは女性的で、駄洒落ではなく「磁場の女王」と形容するに値する。
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南ループ線に向かう TR08。ほんの数分後には画面右奥の線から戻ってくる。
蒸気機関車 Dampflok が本当に横切ったら実に絵になるのだが・・ |
「駅」はカタパルトのようにシンプルなものだ。既存の鉄道インフラを利用できる意味で経済的なICEという強力なライバルと比べ、最大の泣き所は互換性の全く無い特殊軌道を新たに全区間敷設しなければならない点だ。予算面で納税者に過大な負担をかけない点を見学者に視覚的にアピールする為か、シンプルさを殊更強調している印象を受けた。本稿改訂日 (2008年6月) 現在営業しているTRの駅は世界中で上海・浦東空港駅と龍陽路駅だけだが、いずれもシンプルな構造だ。
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この点、山梨県都留市に実験センター* を有するリニア実験線* (後述3.参照) では乗車時は空港のフィンガーのような施設を通って「搭乗」し、なかなかものものしい。純粋に性能と安全性に比重を置いた設計になっており見学者に経済性を視覚的にアピールする要素が少ないのは、国策プロジェクトという側面が強いからだろうか。ちなみに山梨実験線は総延長42.8km中18.4kmが先行区間として完成済で、中央新幹線開通の暁はその一部分となる予定で、東海道新幹線における鴨宮実験線のような位置付だ。この意味で、実験線としての使命のみを有するTVEは、日本リニア史における宮崎実験線に相当するのだろう。
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TR08 プロトタイプ(左)と上海用量産車(右)の運転席。広い。 |
TVE に話を戻そう。つい先程まで韋駄天のように文字通り飛び回っていた TR08 が「ブオーン・グオーン・ウオーン・ヌオーン・・」と唸りながら、シンプルこの上ないホームに小船のようにゆらゆら揺れながらゆっくり進入して来る。磁気浮上列車以外の如何なる乗物でも耳にした事がない怪音だった。乗車への期待が一気に膨らむ。翼の無いヘリコプターが浮いている間は常に身を震わせてローターを回し続けていなければならないように、車輪の無いTRは移動中はどんな低速でも常に磁力で浮かせ続けなければならない。これに対して低速時はゴム車輪で転がる (助走、あるいはタクシングとでも表現すべきか) 日本方式では、低速時はTRのように力攻めで浮かせ続ける必要が無いせいか磁気音は僅かだ。
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左:TR08プロトタイプの2等車 右:量産車の貴賓車(1等車)
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車内は1等車は ICE の1等同様の形状のシートを2+2配列にしたものだが2等車は3+3配列、リクライニング無し、という欧州の優等列車では稀に見る詰め込み設計だ。リクライニングの点を除けばB737あたりの近距離中型機の機内と似た感じだが、「超低空飛行を行う近距離中型機」と考えれば、乗車時間も短いことだしまあ理解できる。
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試乗の際の広報担当氏によると、TRには日本方式とは異なり車輪が無いという説明だったので、「停電したら腹を派手に軌道に擦って車内はパニックにならないか」と質問したら、「停電の際は"瞬時に"非常用電池に電源を切り替えて"当分"浮上走行を続ける」との答えだった。そんなハリウッド映画のようにうまく行くとしたら大したものだ。
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直進モードの分岐器を通過、猛烈な加速を見せるTR08 |
コンクリートで覆われた山梨実験線と異なり、TVEの周囲には風力発電機が林立し、実験用電力を自給しているというのもいかにも環境大国ドイツらしい。緑の沃野の中をゆったりと回る風車群の側を飛ぶようにすり抜けた時、ふと「風の谷のナウシカ」を連想した。 |
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TVE 本線には分岐が3箇所あるが、どういう工夫があるのか四角四面のコンクリートと金属の塊がしなる様子は不可思議だ。ヴァイヒェ Weiche (ドイツ語で「分岐器」) はヴァイヒ weich (「柔らかい」) に通じると見つけたり…とつい下らないオヤジギャグをかましたくなる。この分岐器通過時の衝撃が結構あり、しかも実験線両端ループ区間、特に半径1000mの南ループはカントがきつく結構スリリングで、TVE 実験線規格では飛行機のように乗客に着席を要求する必要があった。上海の営業線は直線が多い為乗り心地は改善されたが、それでも時速400キロを超える辺りから左右方向の独特の小刻みな振動が目立つ。
だが実験線・営業線共に時速400キロまですっと到達できる加速力は見事の二文字に尽き、窓を大きくとった事による大パノラマもまた、架線柱や防音壁のような視覚的ノイズが皆無な事も相俟って ausgezeichnet だった。 |
TVE北ループ線を車体を大きく傾けて疾走するTR08 |
3 日独リニアの比較
パノラミックな TR とは対照的に、2005年の愛知万博 (愛・地球博) でも展示されたJR東海の磁気浮上列車の窓はコンコルドのように小さい。これは軽量化の為と建設予定区間の大半がトンネルになる事が予想されている為だろう。
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しかし、もし将来外国での受注も目指すなら居住性の一点だけで TR08 相手に苦戦を強いられるだろう。小窓化の別の理由として「超高速域では景色の流れが速すぎて乗客の気分が悪くなるから」と日本の鉄道雑誌で読んだ記憶があるが、日本の方が高速で、かつ人口密度が高いという諸点も考慮すべきだとしても、一律にそうと決めてかかるのもどんなものだろうか。大窓車と小窓車を乗客が選択できる位の柔軟性はあっていいと思う。
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しなる分岐器を通過して駅のある側線に進入するノッペラボウの MLX01。
愛知万博での展示車(前の写真)は、このダブルカスプ型と称されるタイプだ。 |
世界をリードする日独両国の磁気浮上列車をもう少し比べてみよう。JR が中央新幹線を念頭に開発中のマグレブ [1] 列車も独 TR も共に制御コイルを軌道側に置くいわゆる地上一次方式を採用する。しかしJRはU字型断面の樋型軌道内に半身を沈めた車体を超電導の電磁誘導方式で左右から吊り上げる方式 (約10センチ浮上)、TR はT字型軌道断面を逆「臼」字型断面の車体がかかえこみ常電導で軌道下の車体底部を吸い寄せて浮かせる電磁吸引支持方式 (約8ミリ~1センチ浮上) を採用する。
[1] magnetic
levitation、磁気浮上の略。北西アフリカ諸国の総称の Maghreb と区別する為にもカタカナ表記はマクレヴの方が良いと思う。
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この角度で見るとU字型軌道壁面の様子が良くわかる。
背景の甲府方先頭車MLX-01 901の超々ロングノーズが目を惹く。 |
日本方式では低速時はタイヤで重力を支えるので、素人目にも安心感がある。車輪が加速時に軌道を離れる瞬間と減速時に接地する瞬間の音と感覚も飛行機の離着陸に似ている。車輪・客席間の距離が航空機の場合より遥かに近い事もあり、加速と共に小型タイヤ特有のせわしい回転音が音階と共に急上昇していき、擬音的表現を試みるとゴロゴロゴロゴロゴロゴロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!・・・と時速120キロ辺りだったかで「テイクオフ」する瞬間がはっきり体感でき、浮上後も暫く車輪が惰性で回り続ける音が聞こえる。浮きっ放しのドイツ方式 (こちらは助走無しで磁力で垂直に浮かせるのでリフトオフと言うべきか) とは明らかに感覚が異なり、日独それぞれに趣がある。 |
唸りと粉塵をあげて超高速に挑むJRマグレブ。雨天時の水煙は壮観だろう。 |
超電導磁石冷却用に液化ヘリウムを用いる日本方式の方が明らかに大がかりで、山梨実験線の高架構造物の躯体は、架線とレールが無い事を除けば、遠目には普通の新幹線の高架のようだ。TR 方式の華奢な軌道と比べると構造の違いが明らかだ。この舞台装置の大小はそのまま性能の差にも反映されている。即ち、最高営業速度430キロのTRに比べ、JRマグレブは営業最高速度は500キロ、高速試験では2003年12月2日に余裕の581キロをマークしている。
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JRマグレブ車内。ディスプレイが速度(時速500㌔突破の瞬間)と起点からの距離を
刻々と表示。左下の液晶画面は列車先端のカメラが撮影する前面展望を同時放映する。 |
ThyssenKrupp、Siemens、ドイツ政府、ドイツ鉄道株式会社が出資するトランスラピッド・インターナツィオナール有限合資会社Transrapid
International GmbH & Co. KG のHPでは、その FAQ* の中で日独方式の優劣を論じている。これによると、ドイツ方式は全ての方式を比較検討した結果現在の方式に行き着いたものであり、とりわけ ①コスト ②磁場が乗客に与える影響 ③客室の快適さ、の各点においてドイツ方式が日本方式に勝り、反面日本方式の優位は高い耐震性能のみを挙げており、性能差には触れられていない。地震の無い国ではドイツ方式が優れている、と暗に結論付けているようにも読める。
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耐震性のみならず、非常時の安全確保に関しても日本の方が慎重だ。TR同様の逆「臼」字型の車体断面を有するリニモは、理論上はTR同様の避難路の無いシンプルな軌道にする事ができた筈だ。しかしこれでは非常時に乗客が軌道に降りて避難する事はできず、脱出シュート* で降りる以外に途は無い。軌道上を非常時の脱出経路とは考えないモノレールのように割り切るかどうかだが、保守要員の安全確保の見地からも、リニモのように安全柵付きの歩行路を併設する方が安心だ。JR の山梨実験線もコンクリート製の側壁間の溝が避難路の機能を果たしている印象を受けた。但し避難路の有無は用地買収費を含めた建設費に大差を生むだろうから、いくら納税者の寛容さで知られる日本でも、安全の為とはいえ軌道単価が余りに上がると長距離路線だと建設費総額が巨額になってしまうジレンマに直面し (山岳国家のわが国の場合それでなくても金食い虫のトンネル区間が多い事が予想される)、結局実用化されるのは空港シャトルのような中・短距離輸送向けになりがちという、ドイツ同様の展開になる可能性も捨てきれない。
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リニモは安全柵付の避難路を設けているので
高架橋の幅はTRに比べて格段に広い
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4 「磁気浮上リニア」 対 「鉄輪式高速鉄道」
トランスラピッドのお膝元・欧州での最大のライバルは、現段階では輸出に必ずしも熱心でない日本製のマグレブよりも、高速化著しい地元の既存鉄道だろう。旧来のレール方式でも高速新線 (独:NBS
= Neubaustrecke、仏:LGV
= Ligne à Grande Vitesse) では時速300キロはもはや標準で、時速350キロ運転も視野に入っている。フランス国鉄 SNCF のTGV (第28話参照) 2代目 TGV-A 型は1990年5月18日の高速試験で時速515.3キロというレール式鉄道の圧倒的世界記録を打ち立てた。
この unbeatable に思われた記録も、同じ SNCF の手によってあっさり塗り替えられた。1000kwモーターで電動化したTGV
Duplex用の二階建連接客車3両の両端を TGV-Est 用機関車 (1960kw×8基) で挟んだ高試特別編成 TGV-V150 が、2007年4
月3日に574.8 km/hをマークしたのだ。その時の模様の 動画* も公開されている。(第28話参照) 空撮も意識し屋根上に長大な吹流し状の三色旗を描き、超高速列車の輸出促進の為の如何にもフランスらしい演出だ。既存インフラと互換性のない磁気浮上型リニア鉄道は、こういう在来鉄道の化物も相手にしなければならないのだ。安価な既存方式で日独のリニアの予想営業最高速度を遥かに抜き去る速度を達成した SNCF の偉業は、超高速リニアのプロジェクトの存続すら脅かしかねない深刻な脅威だろう。
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一等賞を意味する青リボンも誇らしげなTGV-A 高速記録達成編成 |
在来線はどうか。軌間が1435mmで高速新線と共通の為 TGV・ICE 等の超高速列車がそのまま直通できる在来線でも急行は時速200キロは当たり前で、220~230キロ化も検討されている。オーストリア連邦鉄道
ÖBB の在来線高速化の切り札タウルス Taurus 3型電気機関車 (Siemens社設計の営業最高時速230キロ機、脱稿日現在独・墺・洪等欧州9カ国で採用) は2006年9月2日、殆ど無改造・計測車1両牽引の条件で実施した高速試験で時速357キロを叩き出している (オーストリア機のテストをドイツ
(バイエルン州インゴルシュタット Ingolstadt 南方)
で行い、フランスからはそれまでの在来線機関車世界最高速記録を保持する仏 SNCF の BB9004 と CC7107*(共に1955年に時速331キロをマーク)がミュールーズの鉄道博物館を抜け出してタウルスの応援に駆けつけたというクロスボーダーな演出も、いかにも欧州らしくて良い)。
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場所柄、黄色いオランダナンバーの車 (左のVW もそうだ)
の見学者も多い |
既に築き上げられた膨大な鉄道設備という社会インフラと互換性が無い磁気浮上方式はレール方式最速の鉄道より「遥かに」高速でなければ予算の正当化は困難だ。この問題は、①磁気浮上列車の最高時速が日本方式より低い (日本方式の500キロに対してTR08は430キロ) 反面、上記のように新・在共にレール式鉄道の高速化が著しい結果リニア方式の速度面の比較優位が減殺され、②在来線と軌間が同じ幅で新・在直通が容易 (=高価な都心部の新線建設を省略できる) なうえ人口密度が低く鉄輪式鉄道の騒音対策費が日本より低い結果、ライバルのレール式超高速鉄道のコスト優位が明確で、③そして何よりも納税者意識極めて旺盛、という多くの向かい風に晒されるドイツに於いてとりわけ深刻だろう。
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TRの軌道を下から見ると内臓が少し見える |
その結果、80年代に計画された総延長5300kmという壮大な欧州TR網構想は影を潜め、自己完結的な交通体系の路線に販売目標をシフトしつつある。それらは
①TRの高加減速力に専ら注目した短距離のシャトル輸送と、 ②長距離路線ではあるが相互乗り入れを余り考えなくて良い事情のある国、に大別する事ができそうだ。
①については、「メトロラピッド Metrorapid」というコンセプトの下に大空港でありながらドイツ的には都心から遠いミュンヒェンの空港シャトルが最有力候補となった。2007年9月、遂にバイエルン州政府は MUC空港・中央駅間の37.4㌔をTRで10分で結ぶ計画を一旦承認したが、その後予想建設費が当初見込まれた18.5億ユーロ (約3050億円) から34億ユーロ (約5600億円) と倍近くに上方修正された為、2008年3月27日、惜しくも計画中止決定がなされた。この類型では他にもオーストリアのウィーンのシュヴェッヒャートSchwechat空港と隣国スロバキアの首都ブラティスラーヴァ (Bratislava ・独名 Preßburg、最寄の大ハブ空港は地元の Bratislava 空港ではなく約40キロ離れたウィーン空港だ) 間等も候補*に上がっている。2008年竣工のTR09* は、正にこの超高速空港シャトルというコンセプトに即したセミクロスシートの近郊型客室を有する。
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TR08先頭車を下から見る。
両端のタラコ唇状の部分が軌道を抱え込む車体底部だ。
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②の類型については、在来鉄道の速度が低く、かつ島国である故に交通体系が比較的自己完結的で長距離の相互乗入を考慮する必要の少ない英国で、TRの技術を用いてグラスゴー⇔エディンバラ⇔ヒースロー空港・ロンドンを結んで大ブリテン島をほぼ縦断する長距離リニア新幹線計画*
が存在するようだ。更に2008年4月、イランの首都テヘランとトルクメニスタン国境に近い聖地マシュハドの間をTRで結ぶ案が検討中と報道された。東京⇔広島に相当する長距離になるそうだが、これは既存鉄道網が欧州ほど発達していないから互換性を考えなくていい例だろう。 |
中東の砂漠を突っ切って走る日が来るか?
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5 結語に代えて
2006年9月22日、TR08は軌道上の作業車に時速約170キロで激突・大破し、23名の方々が亡くなられた。人為ミスと報じられた。犠牲者の方々のご冥福をお祈り申し上げる。タイミングも悪かった。税金の使途に対する納税者の監視の目が厳しいドイツで磁気方式かレール方式かを議論しているさなか、タウルスが (しかもTRの独国内最有力候補地のあったバイエルン州で) 在来線機関車世界最高速記録を更新し、世論のヤジロベエが反対側に傾きかけた僅か20日後の痛恨の不祥事でもあったのだ。この事故が磁気浮上列車発展にとって致命的な蹉跌とならない事を望まずにはいられない。 |
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